病歴前確率では、鑑別診断を主訴から導き出す際に有病率、緊急性、年齢、個別性といった要素を取り入れることが大事ということを学びました。これで患者さんからある程度は犯人の特徴を引っ張り出せます。しかし、それだけでは不十分。容疑者は複数人残っています。その絞り込みには次のステップである現病歴を使いましょう。
今回は診察前確率。病歴前確率に現病歴をプラスして出される確率です。現病歴は、医学のアートが全て詰め込まれている印象がありますね。これの持つ情報の量と価値は甚大で、ただ聞くだけでなく、こちらから聞き出していくというのが大切。これらが相まって、病歴が生かされてきます。
病歴前の段階で容疑者はある程度分かってくるものの、患者さんから聞き出� �た経過から描かれる犯人の似顔絵と鑑別疾患群の典型的/非典型的な経過からこちらが知っている容疑者の似顔絵とを見比べることが非常に大切になってきます。この照合部が多いほどその疾患の診察前確率が高くなる、照合部が少ないほどその疾患の診察前確率が低くなるという考えを持ちましょう。大事なことは、ただ聞いておしまいではなく、聞いている最中にもこちらの頭の中では鑑別の順位が目まぐるしく変動すること。犯人の顔を聞きながら、複数人いる容疑者の顔と絶えず照らし合わせをして順位付けをしていきます。予想外の病歴が出たら、新たな容疑者を引っ張り出さねばいけないこともあり、そうなったらまたその容疑者と犯人の顔が似ているかどうかを照らし合わせ。私たちの頭の中は結構忙しく働いているんです� �
病歴では、こちらの想定する容疑者たちの犯人らしさがどれくらい強まるか弱まるか、ということを意識します。が、漠然と聞くだけでは必要な情報が漏れてしまいそう。研修医のうちは、いわゆる"痛みのOPQRST"に沿って問診を取ってみましょう。これは痛み系の主訴を持っている患者さん、特に腹痛患者さんで頻用されるゴロでして、人によって多少要素は異なりますが、以下から成っています。
O:Onset
P:Palliative/Provocative(/Past)
Q:Quality
R:Region
S:associated Symptoms
T:Time course
OPQRSTの他にも色々と覚え方があるので、これにこだわらなくても大丈夫です。覚えやすいもので良いですが、自分はこれで問診項目を覚えたので、紹介しました。この中ではOとTの2つが主な情報で、その他はそれらを補強してくれる情報というのが大まかな原則です。痛みについて、まずはさらさらっと各項目を見てみましょう。特に腹痛を思い浮かべて下さい。
Onsetで、痛みの始まりかたを把握します。いつ始まって、どのくらいの時間で痛みがピークになったのかを意識。ある一瞬を境に痛みがピークになるならsudden、数分~数十分でピークになるならacute、数十分から数時間ならsub-acute(or gradual)と捕えます。救急の現場ではこの3分類を徹底しましょう。救急では緊急性を第一にしますので、特に痛みではこの3分類の区切りも結構細かく厳格になります。当然ですが、突然発症、いわゆるsudden onsetは"破れる詰まる"を必ず想定します。血管であれ腸管であれ腫瘍であれ、否定されるまでは破れたのか詰まったのかという緊急事態と考えましょう。これには捻転も含みますよ。
ただし、acuteであってもこれらを否定することは出来ません。破れる時の痛みはハンパないので発症瞬間から強い痛みを呈することが多く、痛みの起こった瞬間に何をしていたかというのを患者さんが記憶していることも度々。しかし、特に詰まる系ではほんの少しだけ色合いが違うことも。血管の詰まりならその先の組織が虚血に陥り炎症となることで主な症状が出ます。ということは、炎症が始まってから痛みのピークになるまでは少し時間を要する可能性があるということが納得できると思います。壊死と炎症は一瞬にしては生じに くいんですね。腸管や尿管と言った管腔臓器内腔の詰まりでは、流れがせき止められることで内圧が上昇し、壁が伸展されます。この伸展による痛みがピークになるまでにはやはり時間を要すると言われるので、acuteだから"破れる詰まる"じゃないなと軽く除外してはいけません。病態生理を抑えると、何となく分かってきますね。
Tierney先生のPearlにもこれを支持するものがあります。
"Though symptoms of aortic dissection are very similar to those of acute myocardial infarction, but the onset is abrupt; myocardial ischemia comes on over a matter of several minutes"
信仰によって克服する痛みに聖書の引用
"大動脈解離の症状は心筋梗塞と酷似しているが、発症は突然である。心筋虚血は数分かけて症状が起こってくる"というものです。解離はベリッと血管が裂けるので、その裂ける痛みによってsudden onsetとなります。そして既にその時点でピークの痛みとなることが多いです。対して心筋梗塞は冠動脈の閉塞。閉塞して組織壊死になるまではほんの少し時間があり、痛みがどんどん増すまでにも若干の時間があり得ます。上記のPearlはこのことを指しています。
Onsetに対する問診方法としては、患者さんには「いつから痛くなったんですか?」とまず聞きます。そして、より詳細に聞くために「痛くなった時、何してましたか?」「それまで痛くなかったのに、ある瞬間からいきなりドン!て来ました?」「痛いなーと思っているうちにどんどん強くなって、10分くらいしてたまらないような感じになりました?」と言った質問をします。このonsetは最重要項目なので、しつこいくらいに分類。患者さんが最初に言うまま『急に痛く� �った』などとカルテに書いては絶対にいけません。
Onsetの次に聞くのは順番通りのPalliative/Provocative(/Past)ではなく、Time courseという時間経過にします。OとTはセットだと考えましょう。"主訴・患者背景・病歴のOとT"、これで緊急性を主とした大まかな可能性の予測がつくものです。このTime courseで聞く所は、ずっと痛いのかそれとも痛い中にも和らぐ時間があるのか、痛みは軽くなっているのか強くなっているのか、という2点です。
前者についてですが、腹痛で考えてみましょう。まず臓器には大きく分けて実質臓器と管腔臓器(血管は除きます)とがありますね。大きな違いは蠕動の有無。原因臓器が管腔臓器の場合、蠕動のため動く時にはやはり痛くなってきますし、逆に動いていない時は少し楽になります。臓器によって蠕動の周期が異なるので、痛みの波の時間間隔も参考になります。この蠕動痛にプラスして、時間経過と共に炎症による持続的な痛みも関与してきます。この炎症は、器質的・機能的閉塞機転や細菌・ウイルスによる臓器への侵襲が寄与します。閉塞機転によるものは、閉塞することで管腔内� �流れが滞り、壁の伸展から虚血、炎症へとつながります。式にしてまとめてしまうと、こうなります。
管腔臓器の痛み=蠕動による痛み(周期的)+虚血・炎症による痛み(持続的)
この様に考えると、以下のことが分かるかと思います。
1)虚血・炎症が起これば管腔臓器であっても持続的な痛みが強くなる
2)虚血・炎症が早期に起これば管腔臓器であっても初期から持続的な痛みを示す
先の例で述べた尿路結石では閉塞から壁伸展・炎症までの時間が短いので発症がacuteの中でも早い時間帯となり、水腎症になるほど内圧が上がるのなら、その痛みは持続的になっていきます。胆石では、一時的な嵌頓によるものなら石が外れれば痛みは無くなりますが、胆嚢内圧が解除されずに上昇し続けると壁虚血から炎症が起こります。当然、細菌感染も生じてきてしまいます。炎症の度合いが強くなってくると管腔臓器とは言え持続痛の側面が強くなってくるというのは、単純性イレウスから絞扼性イレウスへの経過はまさにその好例と言えます。上腸間膜動脈閉塞では、血栓により動脈が突然閉塞しあっという間に腸管壊死となるため、発症は sudden~acute早期であり、痛みも持続的なものとなります。
以上のことをかなり単純な図にしてみましょう。たしか学生の時のポリクリで聞いたことのあるもので、なるほど納得したもの。ある程度は有名と思います。
最初は蠕動による痛み。次第に内圧が上昇して虚血、そして炎症による持続痛がやって来ます。内圧が減じないと痛みは和らいできません。更に病態によって、その持続痛に至る時間は異なります。細かい病態は置いておいて、このような簡単なとらえ方をしておきましょう。
対して、実質臓器が原因であれば、蠕動するものがないので周期性の痛みというものを示すことは少ないと経験的に示唆されています。例外はもちろんありますが、周期性の痛みは管腔臓器を示唆し、休まらない持続的な痛みは実質臓器、もしくは管腔臓器でも炎症が強くなっているものと考えましょう。前者の傷み、特に尿路結石は良い代表例ですが、その痛みなら患者さんは"痛くてもがく"状態です。動き回ることはしなくても見ていて身の置き所� �ない印象を受けます。後者の傷みなら逆に"痛くてもがけない"状態になることが多いです。
イエス·キリスト"痛みを通して"
少しPitfallとして紹介しますが、先ほど例に出した大動脈解離という疾患は、痛みが周期性を示すことがあります。この痛みは中膜が裂けることによるもの。中膜がバリバリっと裂けて、少し休んで、また裂けて、、、。こういう進み方をするので、裂ける時に激痛、休まった時はちょっと痛みが和らぐ、となります。なので、痛みに波があっても消化管以外に鑑別を持つことも必要になってきます。更にこの疾患はSIRSになるので発熱するしSpO2も下がるし、何とも非典型的なプレゼンテーションをします。しかも、"大動脈"だけでなくその分枝の解離、例えば腹腔動脈などの解離があるので、大動脈に解離を認めなくても分枝をきちんと追いかけましょう。
さて、Time courseの後者。痛みは軽くなっているのか強くなっているのか。印象としては、軽くなるなら重症ではなさそう、強くなっていくならどんどん酷くなっている、というものがあると思います。確かにそういう場合が多いのも事実。先ほどの炎症の話もそういう解釈につながります。しかし、ここは注意が必要。痛みが軽くなってきているからと言って安心できない例があるからです。例えば、くも膜下出血でも脳室穿破したら脳圧が減弱して一時的に痛みが弱まります。消化管穿孔もそうですね。穴が開くことで内圧が下がってしばらくしたら痛みが軽くなることがあります。穴が開くというのは病態としては1ランク進みますが、内圧が下がるということに着目すると痛みが軽くなっていくこともあるという事実が分かります。こういうこと を知っておいて、患者背景やOnsetで見逃してはいけない疾患を除外できなければ、詳しい検査に進むべきだと思います。
このTime courseの問診は、持続痛か周期的疼痛かを上手く判別しましょう。「ずっと痛いですか?」と聞いたら大体全員「痛いです」と答えてしまいます。なので、「今よりも痛みが強い時/少しは楽な時がありましたか?」と聞きましょう。そして、答えがYesなら「強い痛みはどのくらい続きますか?大体で良いですけど、5分とか10分とか?」といった感じで周期を問うていきます。しかし、患者さんの中には痛くて痛くてどうしようもないので、余裕を持って答えてくれない人もいます。「いやいや、ずっとずっと」の様に。患者さんはどうしようもなく痛いので「悠長に聞かんで早く痛みを取ってくれよ」というのが本音かも。上手く聞き出せないなー、そんな時は、時間をおいて患者さんの顔をひっそり観察。しかめて唸っている時と、� �しその顔が楽になる時とがあるなら、それは周期的なものと考えましょう。顔が楽になった時に「今、さっきよりも少し楽になりました?」と確かめます。あんまり鬼の首を取ったように「今楽になったでしょ?ねぇ、楽になったでしょ?」とか聞いたらイラッとしますよ。
Time courseを聞く中で、さらっとQuality、痛みの性質についても問診してしまいます。どの様な痛みか。裂かれるような、刺されるような、ぎゅ~っとされるような、ムカムカするような、布団が乗っているような、などなど。「どんな痛みですか?」と最初に聞いておいて、上記のような例をいくつかこちらから提示するのが良いと思います。大まかな臓器のアタリをつけるために参考になります。ただ、心筋梗塞でも「胸やけがする」と訴える患者さんが特に女性でいるので、性質を絶対視してはいけません。
同じくRegionも同時に聞けます。痛い部位を確認しますが、ここで関連痛にも気を払いましょう。一番痛い所を聞いた後で「他にも痛い所ありますか?」と聞いてもなかなか答えは返ってきません。具体的にこちらから「右� ��とか、首辺りとか、腰とか、太ももの内側とか」など、想定する鑑別疾患で関連痛を来すものを考えて聞いていきます。Open questionでは往々にして正しい返事は得られません。こちらからClosedで攻める必要があります。患者さんの痛いというところが関連痛の部位であることもあります。痛いところが本当に原因部位なのか、それとも関連痛部位なのか、それははっきりさせましょう。
次はPalliative/Provocative(/Past)で、今の症状がどうすれば強くなるか、楽になるかです。カッコ書きのPastは自分が勝手に加えたものでして、以前にも同じような症状があったかということを聞きます。この増悪寛解因子も「どうすれば痛みが強くなりますか?」なんて聞かないで、こちらからどんどんアタックしていきます。もちろん、この段階ではある程度の鑑別疾患が浮かんでいるので、その疾患に特徴的な因子を聞いていきます。イレウスでは吐くことで少し痛みが弱まります。腹水が貯まると、仰向けよりも少し身体を起こした方が楽になりますし、急性膵炎では四つん這いで最も痛みが緩くなります。横隔膜近辺の疾患や胸膜に炎症が波及した場合は、深吸気で痛みが増悪すること が知られています。胸痛でも食道破裂は嚥下により強い痛みが引き起こされます。こういうのは実際にその場でやってもらいましょう。「思いっきり息を吸って下さい」と言って、実際に痛みが強くなるか、「ちょっとうつ伏せになれますか」と聞いて患者さんをうつ伏せ気味にして痛みが弱まるかなどを見ます。
Associated Symptomsはその他の症状。くどいようですが、これも基本的にはOpenではなくClosedです。聞くにしても絨毯爆撃でなく、鑑別疾患を想定してポイントポイントを絞って。腹痛では嘔吐はあるか?あるなら痛みよりも前に来たか後に来たかと言った順序など。虫垂炎では、嘔吐が痛みに先行することは珍しいと言われます。咽頭痛で重篤そうであれば、開口制限があるか、息苦しくないかなどを聞くことも必要です。
以上が、"痛みのOPQRST"です。きちんとOとTという時間軸を聞いて鑑別をある程度の道筋に持って行きます。そして、特にPRSでは的を絞った問診。"患者さんは答えを知っている"とは良く言われますが、その答えを常に自発的に出してくれるとは限りません。ある程度はこちらが正しく道筋をつけなければならないのです� ��そして、問診では、症状が"ある"ということ、そして"ない"ということに分けられます。"ある"という陽性所見にばかり眼が行きがちですが、陰性所見も大事です。"ない"ことは重要でないことにはなりません。これは診察でも検査でも同じ。
慣れないうちは現病歴が長くなるかもしれませんが、それは構いません。OPQRST通りに聞いて、もれなくということをまずは目指しましょう。各疾患について理解が深まると、聞くべきところが分かって来ます。鑑別疾患群の中で、この疾患に見られやすい症状、この疾患には見られにくい症状などをピンポイントで攻め込むことが出来るようになると、カルテも短くなってきます。各鑑別疾患で、"ある"ことが特徴的な症状や、"ない"ことが特徴的な症状を押さえておくと、� ��率的な問診が出来ます。でも最初はきちんともらさず聞くことを目標にしましょう。自分も研修2年間が終わりに近づくにつれて、カルテがひゅーっと短くなって行きました。後輩からは「先輩これ聞いてないじゃないスか」と言われることもありましたが、ピンポイントに重要なところは押さえていたんですよ。
後で学びますが、尤度比という言い方を使うと、陽性尤度比であれ陰性尤度比であれ、その値が高い所見とゼロに近い所見を効率良く捕える、ということになります。こういう視点を持ちながら鑑別診断を勉強していくと聞くべきところが分かって来ます。
更に、大事なのはとにかく患者さんに分かる言葉、出来れば日常生活に即した事柄で聞かなければいけません。そして、日常語には色んな意味があ� ��ということを理解しなければいけません。
患者さんは日常世界に生きています。症状と言っても、1つ1つの症状がつながりを持っているとは自覚していません。バラバラな症状たちがあるだけです。対してこちらは日常世界と医学の世界の両者を生きています。日常世界から聞いた症状たちを、医学の世界でつなぎ合わせ、鑑別となる疾患群を想定していきます。そして、他の症状をまた日常の世界に還元して聞いていきます。この繰り返しによって問診はなされます。
言葉。主訴を設定する際もそうでしたが、使う言葉には意味が複数含まれます。こちらの意図している意味がそのまま患者さんに伝わるとは限らず、逆もまたしかり。適切に変換して会話を行わねばなりません。専門語は使う人間のあいだで意味の不一 致が起こらないようにほぼ一義的ですが、日常語は多くの意味を含みます。
この様に世界の違いを考えることで、患者さんから得られる情報と患者さんに伝える情報に敏感になれると思います。患者さんとの"あいだ"、そして自分の中にもある"あいだ"を意識しておきましょう。
こちら側の正しい鑑別疾患の知識、適切な誘導、平易な言葉。これらがクリアされて初めて問診は力を発揮します。そして、患者さんの他に同伴してきた人がいたら、その人からも情報を集めます。特に患者さんが高齢な場合、得てして質の高い病歴を得られません。� �通性の悪さは元々なのか、それとも何らかの疾患で意識障害となっているのかなど。側にいる人の意見が道標となることも多いです。複数の筋から確認を取りましょう。
これまで痛み痛みと言ってきましたが、他の主訴はどうするの?と思ったかもしれません。しかしご安心あれ、ほとんどの主訴で必要な問診項目はこのOPQRSTに含まれているのです!OPQRSTの内容にある"痛み"を他の主訴に置き換えて患者さんに問診しましょう。そしたらアラ不思議、ほとんど漏れなく聞けてしまいます。なので研修医、特に1年次のうちは、現病歴はOPQRSTというゴロを中心に動くと良いでしょう。慣れたらこのようなゴロを意識しなくても各主訴に対して必要なことを聞くことが出来るようになるのですが、最初は特に意識して病歴を取るよ うにします。ですから、疾患の勉強をする時も、病歴についてはOPQRSTを頭に浮かべて整理すると実践に生きてきます。
病棟など比較的問診に時間が取れる場合は、それほど急がなくても大丈夫です。ちょっとした所見でも見つけたいので、より日常生活の面を押し出していくのがポイント。可能なら一日の生活に即して聞くと良いかもしれません。朝起きて歯を磨いてトイレに行って着替えて朝ご飯の準備、食べている間のことも。買い物や仕事に行く時の交通手段について。以前と比べて不自由になったことを、一日の生活を追ってもらいながら患者さんに思い出してもらいます。特に神経疾患であれば、こういうところで小さな異常が出てきます。着替えに支障が出る、トイレが終わって立ち上がりづらくなっている、お箸の使 い方が下手になった、自転車で良くふらつく、駅の階段を使わなくなったなどなど。日常生活の中には様々な負荷があるのです。それを上手く捕まえて聞くのが、問診上達への道となるんです。
診察前確率についてまとめると、主訴と患者背景、現病歴から「見逃してはいけない疾患」と「良くある疾患」とのグループそれぞれの中で鑑別疾患群の確率を考えてみるということです。この中では"主訴"は出発点。そこからは知識として知っている鑑別疾患群が出てきます。"緊急性"と"有病率"、"年齢"と"個別性"、これらを鑑みて鑑別の順位付けです。そして病歴での"時間軸(OとT)"は特に緊急性を考慮する大きな重みとして存在し、他の項目はそれらに付加するものとして考えておきましょう。もちろん例外は常に� ��在するので、特徴的なものは押さえる必要があります。大事なのは、鑑別疾患ごとに特徴付ける要素があるということを常に意識して勉強すること。
これら鑑別の1つの疾患に何%~何%と幅を持たせるのも良いと思います。そして、両グループを併せて大まかな確率を出してみます。ただし「見逃してはいけない疾患」は特別視して、それらの検証から入ろうという姿勢の方が安全。
こうやってステップが進むにつれて、だんだん似顔絵が出来てくるんです。こちらは鑑別疾患群、換言すると容疑者たちの特徴を詳細に知っていることが前提。後は、患者さんから、犯人の顔の特徴をどんどん引き出して似顔絵を作っていきます。そして、自分の中にある容疑者の特徴と照らし合わせ。この繰り返しがある程度まで達成さ� �た時点で容疑者が絞れてきます。彼らの大まかな似顔絵が似ていたら、より細かな相違点を患者さんから聞いていく。どんどん相互作用が深まっていきます。患者さん側とこちら側との"あいだ"で鑑別はなされるものなんですね。「これ以上問診だけで絞りきれない」「恐らくこいつが犯人。他の角度からウラを取っておこう」と考えたら、次のステップ、診察と検査に進みます。診断推論はそういうイメージだと思ってもらえると分かりやすいかもしれません。
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